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Vol.6 ピンとくるかな?ピントの話
#カメラの歴史 #レンジファインダー #ピント #ライカ #コンタックス #フィルムカメラ
いよいよvol.1で紹介した親が我が子を撮れるカメラの登場です。キーワードはピントです。
図1.オスカー・バルナック |
大正14年(1925)、オスカー・バルナック(図1)がライカという小型カメラを世に出します。ライカの登場は画期として位置づけられています。木村伊兵衛は昭和11年(1936)7月発行の『明朗』で、登場当初こそフィルムが粗悪だったため利用者が少なかったが、フィルムが改良されると、性能の良さが評価され、以後の小型カメラがライカをモデルとなったといいます。ではライカの性能の良さとはどんなところにあるのでしょうか。
当時のカメラの解説書を見ると、昭和7年(1932)に登場したライカⅡ型とコンタックスというカメラには、他のカメラにはない機能として、レンジファインダー機能がついたと記されています[松山1933][佐和1937]。
図2.ピントあわせの図 |
レンジファイダー機能とは何でしょうか。スマホで写真を撮る、昨今はあまり見慣れないかもしれませんが、カメラを撮る時、図2のようにファインダーをのぞきピントがあっているかを確認するのが一般的です。ファインダーをのぞきピントがあっているかどうかが確認できるようになったのは、このレンジファインダーが登場してからです。
実はそれ以前のピントあわせは、被写体からカメラまでの距離を目測で測り、レンズの周りにある距離目盛(ピントリング)(図3)を、目測距離にあわせて撮影をしていました。ゆえに目測での被写体との距離がわからなかったり、距離を見誤ったりするとピントのあっていない写真ができています。
図3.ピントリング |
記念写真など被写体が決まった位置にいて動かない場合は問題ありませんが、被写体が不規則に動いたり高速で移動したりするする場合、捉えるのは至難です。この頃のカメラでピントがあった写真を撮るには、目測で被写体との距離を正確につかむ必要があったのです。
カメラが小型化し、持ち運びやすくなって、さまざまな場面で撮影できるようになっても、ピントがあっているのか自身の目で確かめることができなければ躊躇する人の方が多いように思います。それがレンジファインダー機能つきのカメラ、すなわちライカやコンタックスの登場により、ピントがあっているか否かを誰もが自身の目で確認できる、つまり失敗することが少なくなったわけです。vol.1で操作が簡単になったため、母親がこどもの日常を撮影できるようになったという木村伊兵衛の言葉を紹介しましたが、その操作の簡単さとはピントがあわせやすくなったところに求められるのではないでしょうか。
現在は、人がピントをあわせるのではなく、カメラがピントをあわせてくれる時代です。ピントがあわせやすくなったといっても、それこそピンとこないかもしれません。しかし、その技術の起点がレンジファインダー機能にあったと考えれば、そのありがたみも少しはピンとくるのではないでしょうか。(文責:工藤 克洋)
《参考文献》
『写真機械材料目録』浅沼商会、昭和4年(1929)
木村伊兵衛「小型カメラへ! 特輯 私のカメラ観」『明朗』1936年7月
松山思水『実例図解よく写る写真術』金星堂、昭和8年(1933)
佐和九郎『撮影の基礎(アマチュア写真講座 2)』アルス、昭和12年(1937)
《図版》
図1・2.佐和九郎『撮影の基礎(アマチュア写真講座 2)』アルス、昭和12年(1937)国立国会図書館デジタルコレクションより引用
投稿日:2024年10月14日