「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.7

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Vol.7 カメラが撮影してくれる時代


 #木村伊兵衛 #写真家を知る

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図1.ライカ-3A

 ピントがあっているのかどうか、自身で確かめられるカメラ、ライカやコンタックスの登場により、素人でも写真撮影がしやすくなったわけですが、それは他方で、撮影を仕事としてきた写真家にとって、自らの存在意義を考えさせられる転機ともなりました。木村伊兵衛は、次のようなことも述べています。

小型カメラの出現は大型カメラの不便を解決し、撮影操作の簡易化された現在では、どんな悪いコンディションにぶつかっても、撮影の不可能ということはなくなって完全にカメラが物を撮してくれる時代となって来たのです。[木村1936]

 木村はピントがあわせられる小型カメラの登場を「カメラが物を撮してくれる時代」の到来と受け止めていたのです。そしてその時代の到来は、写真家にとっての危機の時代としてみていたようです。以下は先の引用の続きです。

そのため写真家たちは只ボタンを押すだけの役割に引っ込んでしまってはならないのだ。そのカメラを如何に使いこなして、完全に物を写しとるかを考えなければならないと思います。[木村1936]

 ピントのあった写真を撮ることができること、つまり目測で被写体との距離をつかむことができるとことに、専門家たる写真家の存在意義がありました。ところが、ピントあわせはカメラがしてくれるとなると、残っている撮影動作はシャッターを切るだけになります。それでは、素人としていることに変わりはありません。当然、写真家の需要は減っていくことが見込まれます。
 実は木村は、写真館を営んでいました。小型カメラの性能向上は、写真館経営を揺さぶるものだったはずです。そうした状況下で写真家である木村が打ち出した方向性が、小型カメラを使いこなし「完全に物を写しとる」ことでした。それゆえか木村は思い切ったことをします。

写真はリアリズムでなければならないことをはっきり知り、それで写場に閉じこもる写真館などいさぎよくやめてしまいました。[木村1953]

 木村は写真館でお客さんを待ち、記念撮影をする生業を放棄し、小型カメラを携帯して、あちらこちらに赴き、その場の現実を作品として撮りに行く仕事に邁進していきます。
 本展では木村の作品を11点紹介しています。いずれも、「完全に物を写しとる」ことを意識した後の作品です。ぜひその目で確かめてみてください。(文責:工藤 克洋)

《参考文献》
木村伊兵衛「小型カメラへ! 特輯 私のカメラ観」(『明朗』1936年7月)
木村伊兵衛「私の修業時代 広告写真で知るリアリズム」(『アサヒカメラ』1953年9月号)
《図版》
佐和九郎『撮影の基礎(アマチュア写真講座 2)』アルス、昭和12年(1937) 国立国会図書館デジタルコレクションより引用

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投稿日:2024年4月12日