「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.1

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Vol.1「日常のこどもを撮る」のはじまり


 遊んでいるわが子の姿を写真撮影することは、スマートフォンが普及している昨今、いつでも、どこにいても、あたりまえのようにできます。ですが、それができるようになったのはいつ頃のことだと思いますか。
 江戸末期、日本にカメラが伝わりますが、その頃は写真館で5~20秒ほど静止した状態で撮るのが一般的でした。

弘前女学校教員所蔵写真(青森県所蔵県史編さん資料).jpg

図1.「弘前女学校教員所蔵写真」

 図1は明治期に青森の玉写真館で撮影された写真です。左下のこどもの顔に注目してみてください。左右に顔を振ったのか、顔がぶれています。このように、じっとしていられないこども撮るのはとても難しいことでした。
 ところが、20世紀代初頭、撮った画像の引き伸ばし技術が向上し、小さなサイズで印画ができるようになると、印画サイズにあわせてカメラが小型化し、持ち運びが便利になります。また、昭和7年(1932)には距離計とレンズが連動する=距離計を操作すればピントが自動的にあわせられるカメラが登場し、操作が簡易となります。小型カメラの登場および性能の向上について、写真家の木村伊兵衛は、雑誌『明朗』昭和11年(1936)7月号で次のように述べています。

小型カメラのよさを裏書きしているのは、最近の家庭写真熱の盛んになったことであります。今までに見られない子供の良い写真が得られるということはその操作の敏捷、安易なために、母親などが日常生活に於てその子供の真の姿を掴むことが出来るからであります。

 写真館で写真師が撮影する静止状態の写真ではなく、親が日常におけるこどもの姿を捉えられるようになり、「今までに見られない子供の良い写真が得られる」ようになったのです。ここで木村が言っている「良い写真」とは、写真師やカメラを前に強張った表情や姿勢のこどもの写真ではなく、親だからこそみせてくれる表情であったりしぐさがあらわれた写真ではないでしょうか。
 本展覧会で紹介する最も古い作品は、木村伊兵衛が昭和11年(1936)に沖縄で撮影した《子ども》です。奇しくも木村伊兵衛が小型カメラで今までにない写真が撮れるようになったと述べた頃の写真です。つまり本展は、こどもたちの自然な姿を写真に残すことができるようになったところからスタートするといえます。
 いまでは誰もができてしまうこどもの撮影が、ようやくできるようになった時代に、名写真家がいかにして遊び回るこどもをカメラにおさめたのか、その目で確かめてみてください。(文責:工藤 克洋)


《参考文献》
『写場と其光線』上田写真機店、明治44年(1911)
木村伊兵衛「小型カメラへ! 特輯 私のカメラ観」『明朗』1936年7月
《図版》
「弘前女学校教員所蔵写真」青森県所蔵県史編さん資料(青森県史デジタルアーカイブシステム 絵はがき・写真類データべースより引用)

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投稿日:2024年4月12日