「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.2

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Vol.2 小型カメラ普及以前のこどもの撮影


 Vol.1で昭和11年(1936)頃に、小型カメラ普及以前のこどもの撮影について、写真館で撮影したこどのもの顔がぶれている写真を紹介しましたが、当の写真師はどのような思いでこどもを撮影していたのでしょうか。写真館での写真の撮り方について解説した明治44年(1911)発行の『写場と其光線』(図1参照)に次のような記載があります。

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図1.『写場と其光線』撮影例図

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図2.ジルー・ダゲレオタイプ・カメラ

欧米に於て其昔写真術の世に珍らしかりし頃は写真術其物も未だ巧妙の域に達せざりしを以て小児の撮影は写真師の嫌ひし処なりき、又写真師中には全く小児の撮影を謝絶せし向もありし程なり

 「欧米に於て其昔写真術の世に珍らしかりし頃」がいつ頃を指すのか定かではありません。1839年にルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが、ジルー・ダゲレオタイプのカメラを発売し、カメラの販売が始まります(図2)。この頃には、撮影に10~20分を要したとされていますので、じっとしていられないこどもの撮影は難しいと思われます。
 ただし、先の引用の続きを読んでみると、昔は撮影を希望する客に対し、写真師の数が少ないという需要過多の状態だったのが、明治44年頃になると写真技術が発達し、写真師の数も増え、供給が追いついてきたことで、むしろ写真師がこどもの撮影を引き受けるようになったとあります。
 とはいえ、こどもの撮影が難しいとされていたことには変わりがなかったようです。ではなぜ難しいのか。同書によると、こどもは写真館を歯医者のように恐ろしい場所だと思っていたそうです。恐れの他にも恥ずかしくて親の背に隠れてしまったり、撮影準備に待ちくたびれて飽きて撮影ポイントに戻ってくれないといった例があがっています。
 ゆえにこどもの撮影には「常に子供の心持ちを以て対すること必要なり、小児と共に小児らしき戯れをなし小児らしき話しをなし小児らしき玩具を取り扱ふに慣るゝを要す」と同書では結んでいます。こどもの気持ちになって撮影に臨むようにというのは、今も同じことがいえるのではないでしょうか。
 ただ同書には、こどもの「善良なる写真を得んは容易のことにあらずと雖も其容易ならざる処に興味隠るゝあり」ともあります。こどもを撮ることは難しいけれども、そこに面白さがある。こどもを撮ることは、写真師の腕の見せどころだったのかもしれません。

《参考文献》
『写場と其光線』上田写真機店、明治44年(1911)
《図版》
図1.『写場と其光線』上田写真機店、明治44年(1911)国立国会図書館デジタルコレクションより引用
図2.佐和九郎『佐和写真技術講座 第2巻 (カメラとレンズ)』アルス、昭和34年(1959)国立国会図書館デジタルコレクションより引用

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投稿日:2024年4月12日