「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.4

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Vol.4 カメラが小型化するメカニズム


 明治42年に小型カメラが登場し、流行していきますが、小型カメラの要件は「手札判以下のもの」で、流行の理由は「原板」の「引伸法」が簡単になったためであるとVol.3で紹介しました。
 「手札判」、「原板」、「引伸法」。いずれも耳慣れない言葉です。これらの言葉を理解するには、当時のカメラは、どうやって撮影し、紙の写真にしたのかを理解する必要があります。
 被写体にレンズを向けてシャッターを切る(スマホやデジカメであればシャッターボタンを押す)のは今と同じです。ただ異なるのは、撮った画像の残り方です。現在は、スマホやデジタルカメラであれば、デジタルデータで保存され、紙に残す場合は、そのデータをプリンターで印刷します。
 しかし当時のカメラで撮った画像は、当然のことながらデータではなく、薬剤を塗ったガラス板やフィルムに残していました(図1~2)。

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 図1.写真乾板(ガラス板)図

 図2.ロールフィルム

 このガラス板やフィルムにはさまざまなサイズがあります。実は「手札判」とはこのガラス板やフィルムのサイズ名称のことで、8.2×10.8cmサイズのものを指します。これ以下のサイズのガラス板やフィルムをセットするカメラを小型カメラと呼んでいたわけです。
 フィルムには、ガラス板と同じように板状のものとロール状のものがあります。ガラス板や板状のフィルムであれば、カメラの後部にあるポケットに(図3)、ロール状のフィルムであればロールが巻き取る軸にそれぞれセットして撮影します(図4)。この状態でシャッターを切ると、ガラス板ないしフィルムに画像が残るようになっていました。この画像を写つしたガラス板ないしフィルムを「原板」と呼びます。

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図3.写真乾板(ガラス板)挿入部図
水色枠が板状のフィルム。   
赤枠部分のフィルムポケットに、
フィルムを入れ蓋をする。   

図4.ロールフィルムの設置
右の軸部分にロールをはめ、
フィルムを取り出し、   
左の軸に巻きつける    

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 図5.印刷木筐・焼筐

 これで一応撮影は完了です。ただ、ガラス板やフィルムに写した画像を紙に印刷するにはどうすればいいのでしょうか。当初は、「印刷木筐」(いんさつきばこ)、「焼筐」(やきはこ)と呼ばれる木枠(図5)に、原板を置き、その上に薬品を塗った紙を置いて圧を加えつつ、光をあてることで、紙に原板の画像を写し取りました。これで紙の写真の完成です。
 ただし、印刷木筐で紙の写真をつくる場合、原板サイズと同サイズの写真しかできません。大型サイズの写真をつくりたい場合、大きなサイズの原板(ガラス板、フィルム)が必要になるとともに、それが入るカメラも必要となるのです。
 小さい原板から大きな紙の写真がつくれないか。そこで考えられたのが引伸機です(図6)。



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 図6.高級キング写真引伸機

 図7.引伸機のしくみ

 図7では、引伸機内部にあるライト(図の左にある「光源」)で、引伸機の中央にセットした原板を照らすと、レンズを介して右側に原板の画像が映ります。この画像が映ったところにセルロイドを塗った紙を置くと、原板の画像が紙に写し取れます。ただし図7の引伸機では、原板の大きさが一種類に限定されます。そこで、図8を見てください。

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 図8.引伸機の進化

 図8のMを引伸機の光源、Oをそのレンズと置き換え、ここにCのレンズを付け加えた状態になっていますが、これにより、1のような大きな原板でも、2のような小さな原板でも、同じサイズの画像Sが映し出せます。
 原板のサイズに制約された紙の写真の作成が、引伸機の登場により、小さな原板でも大きな原板と変わらないサイズの写真が作れるようになりました。こうした撮影環境の整備が、カメラの小型化を推し進めていったのです。






《参考文献》
ヘルマン・フォゲル著、小川一真訳『光線並写真化学』明26年・1893年
帰山教正『カメラと映写機の作り方 (少年技師ハンドブツク ; 第11編)』誠文堂、昭和5年・1930年
松山思水『実例図解よく写る写真術』金星堂、昭和8年・1933年
《図版》
図1・8.帰山教正『カメラと映写機の作り方 (少年技師ハンドブツク ; 第11編)』誠文堂、昭和5年・1930年、国立国会図書館デジタルコレクションより引用
図2.佐和九郎『撮影の基礎(アマチュア写真講座 2)』アルス、昭和12年・1937年、国立国会図書館デジタルコレクションより引用
図3.浅沼藤吉『写真機械材料目録』浅沼商会、明治40年・1907年、国立国会図書館デジタルコレクションより引用
図4.ワルタックス、個人蔵
図5.ヘルマン・フォゲル著、小川一真訳『光線並写真化学』明26年・1893年、国立国会図書館デジタルコレクションより引用
図6・7.上田寅之助『写真銘鑑 附・写真機及写真鏡玉撰択』上田寅之助、大正14年・1925年、国立国会図書館デジタルコレクションより引用

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投稿日:2024年6月12日