「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.22

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Vol.22 被写体にどう思われるかよりありのままを


#土門拳 #筑豊のこどもたち #写真家を知る #写真史

 本展では、石炭から石油へとエネルギーの転換により、職を失った筑豊炭田の労働者のこどもたちを捉えた土門拳の『筑豊のこどもたち』の一部を展示しています。
 筑豊の撮影は、書店からの依頼で、多くが失職した炭鉱労働者とその家族の生活の悲惨さを撮ることを目的としていたそうです。ただし、撮影するうちに「大人の失業者たちよりも、それによせる家族、とくに子供たちに父親の苦しみが集約されている状態を撮って、社会に訴える手だてとしたい」との思いに至ったといいます[土門1977年]。
 土門は、半月間、筑豊炭田にもぐり込み、ボタ山や炭住、学校でのこどもたちの姿を撮影していますが、そのなかでも興味深いのは学校の昼休みの様子を撮影した「弁当を持ってこない子」です。そのキャプションに「弁当を持ってこないこどもの顔は、写さないでほしいと校長先生は気を配っている」とありますが、こどもの顔が見える写真を土門は撮っているのです。
 Vol.13で熊谷元一は自身が暮らす村の住人が、迷惑をこうむるような写真は撮らないようにすることで、自身はアマチュアだと謙遜していたのとは対照的です。被写体のプライバシーをいかに守っていくかは難しい問題ですが、この写真こそ土門のいう「現実よりも正しい方向へ振り向けようという抵抗の精神の写真的な発現」なのかもしれません[土門1953年]。土門が写した筑豊のこどもたちから、筑豊の貧困のありようとともに、彼の写真に込めた想いを感じていただければ幸いです。(文責:工藤 克洋)

《参考文献》
土門拳「土門拳「私の履歴書」『日本経済新聞』昭和52年(1977)12月28日付
土門拳「レアリズム写真とサロンピクチュア 月例第1部総評」『カメラ』1953年10月号

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投稿日:2024年3月13日