「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.21

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Vol.21 集団就職をするこどもたちの前で


#麦島勝 #写真家を知る #写真史 #集団就職

 昭和のこどもたちが親と離れ離れにならなければならなかったのは戦争ばかりではありません。そのひとつが集団就職です。本展では麦島勝が熊本でとらえた集団就職の写真を紹介しています。
 高度経済成長期に突入し、大都市部では工場等で働き手が不足するなかで、地方では家計の事情から高校に進学させることが難しいことや就職先が減ってしまうといったこともあり、地方の中学生を大都市へと集団で就職させるということがありました。集団就職では、就職先である企業がこどもたちの親に仕度金を事前に支払っている場合があり、こどもの意向はお構いなしに就職させられるということもあったそうです。そんな彼らの姿を、八代から熊本までの列車に同乗して撮影したのが麦島勝でした。
 麦島の目の前にいたこどもは「何でおどんたちが行かんばんとか!」、「成績はあんたより俺の方が良かったつぞ」と述べていたそうです[澤宮2017年]。
 その気持ちは麦島もよく理解できたそうです。八幡製鉄所に勤務していた麦島は、20歳の時に兵役召集となりました。納得できなかった麦島は、上司に対し「そんなに私の成績が悪かったですか」と文句を言ったそうです。集団就職する中学生の、なぜ自分が大都市まで行って働かなければならないのかという思いに、麦島は出征した自身を重ね「兵隊に行くのと同じでしょう」と述べています[澤宮2017年]。
 車内で語っていたこどもたちの言葉を念頭に置くと、麦島の作品「集団就職」にみえるこどもは、どことなく不安や寂しげな表情をしているようにみえるのですが、それは私だけでしょうか。(文責:工藤 克洋)

《参考文献》
澤宮優『集団就職』強書房、2017年

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投稿日:2024年4月12日