「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.12

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Vol.12 給食の写真のように見えて・・・


 本展のチラシやポスターのメイン画像として使用している熊谷元一の「コッペパンをかじる」(昭和28年撮影)は、学校で「給食」のパンを食べているこどもの写真と誰もが思うのではないでしょうか。しかし熊谷の解説には「こどもたちのべんとうは米飯が多いが、最近では非農家のこどもでパンを持ってくるものが毎日何人かずつある」とあり、なんと、この子が食べているパンは弁当だったことがわかります[熊谷1955]。
 ありまのままを示す写真は、物事を伝えるうえで有効なツールです。文字のみで言葉を尽くし伝えるよりも、写真1枚をみせた方が伝わることが多いと思います。熊谷も写真を用いた村誌の作成を試み、昭和13年(1938)には写真集『会地村』を刊行します。今でこそ、写真がメインの情報誌は多くありますが、そのスタイルが流行しだしたのは1930年代です。その影響を受けて熊谷は村誌を作ったと述べており、見てすぐわかる写真で村の生活を伝えようとしていたことがうかがえます。
 ですが、写真を見ても何を撮影しているのかわからないことも多々あります。また、写真だけでは、完全給食で育った我々が、この写真を「給食」の風景と見たように誤解も生じます。上記のような誤解もあるでしょう。そんな時、写真に解説があると、視覚的な情報をより具体的に把握することができます。熊谷は「芸術的にはすぐれていなくても、記録として何かの役に立てればいい」と述べています。熊谷には「記録」という意識があるからこそ、先の引用のような行き届いた解説が付されているのではないでしょうか。
 そういえば、35年前の筆者の子どもの頃の写真には、いつどこで何をしている時に撮ったものか親による記録が付されています。写真が撮りやすくなり、いつでも見返せる今日、私も含め記録する意識が薄れているようにも思います。熊谷の作品を通して記録という観点から写真を見直してみてはいかがでしょうか。(文責:工藤 克洋)

《参考文献》
熊谷元一『一年生 ある小学教師の記録』岩波書店、1955年

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投稿日:2024年3月13日