「カメラをもう一度」春季特別展 特設ページ vol.10

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Vol.10 思わずシャッターを切ってしまったこどもの笑顔


 昭和30年(1955)に、土門拳が大阪新橋で撮影した「お使い小僧」という写真があります。本展にも出展しているこの写真は、二人のこどもがカメラ目線でにっこり笑顔で写っている写真です。残念ながらここで写真(画像)を掲載することができないのですが、この写真にまつわるエピソードを紹介しましょう。土門のは次のようなコメントを残しています。

相手が気づかないうちにシャッターを切らなければスナップのおもしろみがない。しかしこの写真は逆に、二人の小僧が気づいて、恥じらい笑ったところを撮ったものである。[土門1957]

 気づかないうちに撮るのがおもしろいと土門は述べています。Vol.9で、土門がこどもたちの写真を撮る時には、カメラをこどもたちに触れさせ、警戒心を解いた後に撮影していたことを紹介しましたが、その際に引用した文章を読み直してみると、それ以外の撮影方法として「ゆきずりのスナップ」の場合もあることに気づきます。
 実際にこの手法でこどもを撮っていたようで、今回の展示にはありませんが、戦後、新聞売りをしているこどもを撮影した時、「気づかぬうちにパッとシャッターを切りましたが、怒ること怒ること」と後で気づかれて怒られたといいます[土門1950]。土門がこどもを撮る場合、どうやらじっくり腰を据えて撮る場合と、気づかれないうちに撮る二つの撮影パターンがあったようです。
 ただ「お使い小僧」は、撮る前に気づかれてしまいます。ですが、土門はシャッターを切ってしまいました。その理由を、「この二人の笑い顔に、明るさや心理的なはずみをとらえようとした」からだと述べています[土門1957]。気づかれてしまったが、彼らの明るい笑顔に思わずシャッターを切ってしまったということでしょうか。
 土門が思わずシャッターを切ってしまった「お使い小僧」をぜひその目でみてみてください。(文責:工藤 克洋)

《参考文献》
土門拳「街」『カメラ』1950年3月号
土門拳「私の決定的瞬間」『カメラ毎日』1957年7月号

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投稿日:2024年4月12日